男性と女性で言葉づかいが顕著に違う日本語、世界的にも珍しい特徴です。
なぜ日本語は男女で言葉づかいに差があるのでしょうか。
国の歴史を紐解けば、その起源が見えてきました。
男女の言葉づかい、違う理由はズバリ…!
When(いつ)
室町時代の頃に
Who(誰が)
宮中に仕える女性たちが
What(何を)
「女房詞」を生み出し
How(どのように)
のちに一般女性にも広まって
男性の言葉づかいとの差があらわれたと推測されます。
男女が同じ口調だった時代から、女房詞をきっかけに女性語が誕生?
歴史的には、もともとあった男女の共通言語から派生して女性語が作られた、という見方ができます。
女性語の起源としてあげられるのが、「女房詞(にょうぼうことば)」です。
これは室町時代頃、宮中に仕える女性たちが使用していた言葉。
上流階級の女性を中心に広まった言葉ですが、江戸時代になって一般層にも浸透したと考えられています。
明治時代には新たに「てよだわ言葉」が生まれるなど、時代とともに女性語が確立していきました。
昔は男女とも同じ言葉づかいだった
一般市民や下流層の人々は、江戸時代頃まで男女における言葉づかいの差がほとんどなかったといわれています。
女性の一人称が「おれ」だったり、語尾に「ぜ」をつけることも普通だったとか。
同じ性別でも、身分の高いものとそうでないものとでは、言葉づかいに差がありました。
性差より、階級や地域による言葉の違いが大きかったかもしれませんね。
女性言葉が登場したのはいつから?
口語としての女性語、その起源の1つが「女房詞」です。
室町時代の女官たちの間で生まれた言葉で、頭に「お」、末尾に「もじ」をつけるといった特徴があります。
“おでん”、“おにぎり”、“ひもじい”。
これらも女房詞の一例で、現代までそのまま伝わったようです。
女房詞は、江戸時代頃になると一般層にも認知されます。
宮中女性が使っていたこともあり、上品さや、どこか優雅な響きも感じられたことでしょう。
そうした影響も手伝ってか、女房詞を使用する女性が増えていきました。
・「ひらがな」は女性が使う文字だった?
話し言葉ではありませんが、平安時代にできた“ひらがな”は、女性が中心に使う文字でした。
当時は「女手」と呼ばれ、女性が和歌を詠むときなどに使用していたのです。
反対に、漢字や漢語は男性のもので、女性が使うべきでないという風潮が、長く続きました。
明治時代にできた「てよだわ言葉」
明治時代、若い女性の間で使われ始めたのが「てよだわ言葉」です。
小説の中の女性のセリフから生まれた、下流層の女性が使っていた言葉から派生した、などの説がありますが、実際に広めたのは当時の女学生たちとされています。
「〜〜ですってよ」「〜〜だわ」など、語尾に“てよだわ”をつけたこの口調。
今でこそ女性の喋り口調だとわかりますが、当時は斬新な言葉づかいだったのです。
男性目線ではあまり好ましい喋り方ではなく、批判の声もありました。
一方で、フィクションの世界ではてよだわ言葉の採用が増加。
いつしか、てよだわ言葉に対する批判的な風潮も、廃れていくのです。
社会的な性差と言葉づかいの関係
国語とは男性語である、これを前提に標準語が規定されました。
女性語は、あくまでその亜流という扱い。
国語における性差はそうした思想を基に構築され、教育の名のもとに広められます。
女性語に関しては、丁寧で穏やか、柔らかい物腰が求められ、行動や思想も含め“女性らしさ”という概念として根付いていったでしょう。
これらは当時の父兄性、男尊女卑の社会通念を色濃く反映したものと考えられます。
このように女性語とは、当時の国が求めた女性像の中で作り出されたもの、という側面があるのです。
神戸和昭(2014)「江戸東京語における自称オレの女性忌避」PDF(参照2021.4.11)
かつて「かな文字」は女性用だった?「かな文字」成り立ちの歴史と秘密に迫る | 歴史・文化 – Japaaan(参照2021.4.11)
京大連続講座・王朝文学の世界3(2010)「カタカナとひらがな」PDF(参照2021.4.11)
平仮名は誰が作ったのですか | ことばの疑問 | ことば研究館(参照2021.4.11)
江戸時代は男女の言葉に差がなかった!? (2015年7月19日) – エキサイトニュース(参照2021.4.11)
おいしい、おもちゃ… 今に伝わる女房言葉|NIKKEI STYLE(参照2021.4.11)
出雲朝子(2003)「明治期における女学生のことば」PDF(参照2021.4.11)
藤井禎子(2009)「日本語の歴史の中の位相と性差」PDF(参照2021.4.11)
男性語と女性語の主な違い
一般的に知られている、男性語と女性語の代表的な違いをあげていきます。
普段から無意識に使っている言葉たちにも、意外と差があることがわかりました。
呼称の違い
自分や相手を呼称する際の呼び方には、男女で大きな違いがあります。
男性語の一人称といえば「おれ」や「ぼく」。
反対に、女性は「わたし」「あたし」が定番です。
成人であれば、あらたまった場面で「わたし」を使うのは男女共通でしょう。
相手を呼ぶ際に「おまえ」が多いのは男性、「あなた」をよく使うのは女性。
「あんた」はどちらとも、あるいは地域によるといったところ。
昔は「きみ」といえば男性語でしたが、現在は境界がほとんどないように思えます。
終助詞の違い
男性の口語では、終助詞に「ぜ」「ぞ」「だ」「か」をつけるケースが多いですね。
「行くぞ」「そこだ」「大丈夫か?」など、断定的で歯切れの良い語尾が目立ちます。
女性によく見られるのは、「よ」「ね」「の」「かな」といった終助詞。
「いいよ」「そうなの」「大丈夫かな?」といった口調は、男性語よりも角がなく、柔らかい印象をうけるでしょう。
発音の違い
発音やイントネーションも、男女で微妙に異なります。
「しない」が「しねぇ」に、「わるい」が「わりぃ」に変化するのは、男性によく見られる口調です。
対して女性は、「だよねー」「やだー」「だしー」など、語尾を伸ばす傾向に。
どちらかというと、女性語は言い終わりのイントネーションが上がるのも特徴でしょう。
語彙の違い
同じ意味の言葉でも、性別で差がある言いまわし。
例えば「食べる」を「食う」、「ごはん」を「めし」というような、ぶっきらぼうな表現は男性語とされてきました。
こうした口調は、表立っての発言は控える女性が多いでしょう。
一方で、女友達同士やSNSでは用いるなど、カジュアルな場では使う、という人も少なくない印象です。
違いが少なくなっている言葉の性差
男性語と女性語の違いの中でも触れましたが、現代は男女の言葉の差が衰退傾向にあります。
以前は男性語とされていた言葉を、女性が使うように。
逆に「よ」「ね」といった語尾を男性が使うことも、珍しくありません。
女性の社会進出を始め、ジェンダー平等の意識が拡大したことが、大きく影響しているのではないでしょうか。
方言にはもともと性差が少ないものがある
世界的に見ると性差が大きい日本語ですが、地域によってはその差が少ないこともあります。
“方言”がそうです。
東北地方では、女性の一人称に「おれ」「おら」を使うなどが、その一例。
標準語に次いで有名な大阪弁も、性差があまりないといわれる方言ですね。
「や」「ねん」「やろ」「へん」などが語尾につきますが、いずれも男女ともによく使う口調でしょう。
同じ日本語なのに、住むところによって様々に違うのが、方言の面白いところです。
安田,小川,品川(1999)「現代日本語における男女差の現れと日本語教育-意識・実態調査の分析-」PDF(参照2021.4.11)
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男女共通の口調から、女房詞やてよだわ言葉などを経て浸透した女性語
日本語の性差、その始まりは室町時代の女官が使っていた「女房詞」にあると考えられています。
のちに一般層にも浸透し、明治時代には「てよだわ言葉」の普及、さらに国をあげて前時代的な“女性語”が広められていきました。
ジェンダーレスが進む現代では、言語の性差は小さくなり、共用の口調が多く見られるように。
どう話すかを決めるのは性別ではなく個であり、それが尊重される時代になってきているのですね。
出典
三宅和子(2004)「日本語の世界を探索する(三)―日本語の男女差を考える―」PDF(参照2021.4.11)
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